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平成29年04月27日掲載

Vol.3 : GPSの基本原理と航空用GPS〔後半〕 ❖


GPS誤差の補正

 GPSに関する最近の話題としては、数センチ単位の許容誤差でGPSを利用した夢の自動化運転等が可能になる等のニュースを耳にされていると思いますが、誤解し易いこともあり、航空界に携わったものとしての、航空特有の課題等を少し説明したいと思います。

 GPSの精度及び信頼性を向上させる直接的な方法としては、各GPS衛星の時計誤差、衛星軌道情報の誤差、電離層遅延誤差等について、地上局でGPS衛星をモニターし、位置の分かっている受信地上局(基準点)でのGPS位置表示の違いから補正データを作成し、その補正データをGPS受信機で補正値として利用することで画期的な精度向上が可能となります。
 補正データを収集、GPS受信機側に送信する方法としては、昔からあるものとして海上保安庁が船舶用にサービスしているDGPS(デファレンシャルGPSとして、中波帯で放送)がありますが、簡易的なものであり説明は省略します。

SBAS(Satellite Based Augmentation System: 衛星型補強システム)

 現在、航空用GPSデータ補正システムの主体であり、地上の多数の基準点でのデータを静止衛星から送信する方法で、ICAO(国際民間航空機関)による技術基準も作成されており、2000年代初頭に米国FAAが運用を開始した、インマルサット静止衛星を利用した衛星型補強システム WAAS(Wide Area Augmentation System )が最初に運用を開始しています。

 ヨーロッパでは、2005年にEGNOS(European Geostationary Navigation Overlay Service)が、同様インマルサット静止衛星等からの放送として、一部運用を開始していますが、特徴的なこととしては、運用は民間企業である欧州衛星サービスプロバイダー(ESSP)であり、GPS以外にもGalileo、ロシアのGLONASSに対する補強、各種の民用対応にも、一部有料サービスで対応することになっています。

 日本でも、2005年に国土交通省がH-ⅡAロケットにより打ち上げた、MTSAT運輸多目的衛星(= ひまわり)を使い、静止衛星補強システムMSAS(MTSAT Satellite-Based Augmentation System)の運用を開始しています。SBASとして米国のWAAS、EUのEGNOS、日本のMSASの3システムが揃うことで、全世界で切れ目なくGPSのSBASによる補強が可能となることで、当時から期待されていました。
MSASの特徴としては、FAAのWAASに準じたシステム(ソフトウェアー)であること、FAAでは無かったSBAS静止衛星そのものもGPS同様の測位衛星として利用可能とする、レンジング機能が追加されています。

SBAS 運用段階での当面の課題等

 SBASによるGPSのデータ補正としては、GPS側衛星での時計誤差、衛星軌道情報の誤差、大気(水蒸気等)による誤差、電離層遅延等の誤差があります。特記すべき課題としては、電離層による電波の遅延誤差が、他の誤差の数倍から数十倍も大きく、且つ地域、時刻等で異なること、中でも11年周期等で生じる太陽活動の極端な太陽風、磁気嵐等の影響では、電離層への影響がスポット的且つ急激な変化が確認されたこと等です。当初2000年代には実現すると考えられていた、MSASによるカテゴリ-1 ILS相当の精密進入は、地域的な課題もあったことから不可能となり、一般的なILS 設備に代わり得るとの承認は得られませんでした。  
 SBASによる補正データの作成には、サービスエリア内でのできるだけ多くのポイントからの補正データを収集し、それらの整理したデータをできるだけタイミング良く、SBAS衛星から送信できるか等で、GPS受信機で使用できる精度、完全性、サービスの継続性、利用可能性の満足度等が決まります。
 日本の地域性もあり、MSAS使用ではCAT-1相当の精密進入は実現していませんが、FAAは、2005年頃からGPS/WAAS受信機を使用したLPV(Localizer Performance with Vertical guidance)進入方式を設定し、完全なILS方式ではないものの、GPS補正により可能となった第一歩となっています。
 これらの課題については、米軍が2005年以降に打ち上げているGPS衛星(ブロックⅡRMシリ-ズ以降)が民間用としてL2C信号(1227.6MHz)が追加されたことで、現在対応が検討されています。電波の電離層による遅延は周波数で異なるため、GPS受信機でL1、L2Cの異なる周波数での到達時間の差から電離層遅延の補正データに使用できる可能性があり、期待されているものです。

準天頂衛星(みちびき)について

 日本独自のGPS(GNSS)とも言われている準天頂衛星(QZSS:みちびき等)が話題となり、SBASの一種とも考えられています。
 航空目的であれば、飛行中の航空機周辺にGPS受信の障害物等は想定されません。当面は航空目的ではないため、ICAOの技術基準等の適用でなく、多くのGPS使用が想定される、都会等ビルの谷間でもGPSが使用できるように、衛星位置ができるだけ日本上空天頂位置にあるような軌道(東経135°を中心とした楕円軌道で傾斜角41°、周期23時間56分)上に打ち上げたものです。24時間カバーするためには、更に3機の4機体制、将来的には7機で運用される計画です。
 GPS補正データの内容、システム等は、日本でSBASシステムとして運用されている、航空局のMTSAT衛星(東経140°の静止軌道)からのMSASデータと基本的に同じ(将来的にMSASの代替予定)とされていますが、大きく異なるのは、MSASが当時計画されていた、ICAO基準に基づく世界中をカバーするSBASシステムの一貫として、日本での航空行政当局で航空機側への運航承認も行う航空局が打ち上げていましたが、準天頂衛星では宇宙開発の研究機関であるJAXAが打ち上げ、システム開発も目指しています。
 初号機QZS-1(みちびき)では、原子時計が2台搭載(GPSでは3~4台)され、位置測定用としてのGPSとしても使用が可能ですが、基本はGPS衛星による測定位置を補正するものです。そのための各種送信周波数として、L2C、L1C以外に計6種類の送信が可能である等、各種、技術開発的な要素も多いものとなっています。

 なお、準天頂衛星による位置誤差は数センチ以内であることに対し、従来のGPS SBAS利用の民間航空機では、数メートル単位の誤差要件の精密進入等が課題となっています。航空では同じ位置精度等の要件であっても人命にかかわる事故原因となり得ることから、有り得ないものとしての証明要件が加わるからです。航空以外の通常の民間使用では、実用上問題なしと扱われるものです。


文 : N.SUZUKI


   
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