業界人ここだけの話 Vol.2 : GPSの基本原理と航空用GPS〔前半〕
現在では、誰でも何らかのGPS受信機(スマートフォン、カーナビ等)を持ち、ただただ便利に使用しているのが私を含めた大多数でしょう。
私自身、10数年前、日本での航空用GPSに関係した一時期もあり、詳細かつ最新の知識ではありませんが、基本的なGPSの原理、航空用GPSとの違い等、参考になればと整理します 。
歴史
GPS衛星(Global Positioning System)はアメリカ空軍が打ち上げている軍事衛星で、衛星の寿命があることから1978年最初のGPS衛星(ナブスター1)の打ち上げから、現在まで70機程度、打ち上げられています。
毎年2機~4機程度のGPS衛星が、高度20200km、傾斜角55°の円軌道に打ち上げられ、常時30機程度の衛星を運用していることで、全世界をカバー(基本の衛星配置コンステレーションは、6面の軌道上に計24機)しています。
GPS衛星は打ち上げ各シリーズ(ブロックNo等)で仕様変更(追加の送信周波数等)されますが、特定の軍事目的等を除き、基本的な民間機での運用では、軌道上のGPS衛星すべてが新仕様になり、民間当局(FAA、JCAB等)の認証を受けた以降に正式運用となることから、新機能については最初の新型衛星が上がってから試験が始まり、年間に打ち上げられる衛星の数は限られていることからも、10年以上経って正式運用される等も普通です。
GPSナビゲーションの基本原理
各GPS衛星は、搭載された原子時計の時刻及び衛星の位置情報を、L1(1575.42MHz)周波数のデジタル信号(C/Aコード)で放送しており、受信機側では最低3機のGPS衛星から衛星位置及び発信時刻を受信しています。受信機側での受信時刻の差からそれぞれの距離を計算し、GPS衛星3機の三角測量の原理で、受信機側の地球上の位置を表示する原理です。また、受信機には正確な時刻を確認するための原子時計はありませんので、受信機側の時計(クオーツ等)補正のため、4番目の衛星からの信号を受信します。地点の確認のためでなく、4番目の衛星を使用した3角測量でも同じ地点を想定していると仮定することで、受信機側の時刻を衛星の原子時計に同期、補正するために使用しています。
他に、航空用GPSでは「受信機による完全性の自律的監視」と呼ばれるRAIM(Receiver Autonomous Integrity Monitoring)要件があり、そのための5番目の衛星からの信号をモニターし、既に3機の衛星により測定されている位置表示が他の衛星を利用した組み合わせでも同じ位置を表示するかで、使用衛星が正常であるかを確認しています。
各GPS衛星には複数(3~4台)の原子時計が搭載されていますが、2004年1月2日に起きた稼働中のGPS衛星28機のうち23番目の衛星(SVN23)が故障し、日本を含めた当該衛星が通過していた世界各地で、約3時間の間、最大数百キロもの誤差表示(舶用、カーナビ等)が生じたことがあります。なおRAIMには、要求されるGPS精度に応じたRAIM予測(三角測量の原理による位置確定では、使用される3点がある程度角度の開きがあることで精度が上がるため、GPSの使用が予定される地点及び時刻での衛星位置が、要求される精度を満足するか等の確認)の要件もあります。
また、FDE(Fault Detection and Exclusion)機能としての要件もあり、洋上飛行等GPS以外の他の航法計器が利用できない場合等にRAIMを感知しても、GPSを継続使用できるようにするために、6番目の衛星を使用することで故障衛星を特定して位置使用から隔離し、GPS継続使用を可能とするものです。
(通常の航空機は、飛行中にはGPS衛星7~8機以上のモニターが可能な衛星配置です)以上がGPS使用上の基本原理ですが、現在、より高精度、信頼性等を目指した開発が日本を含めた世界各国で行われており、それらの一部を紹介します。
留意すべき点としては、GPS衛星自体はアメリカ空軍が管理している軍事衛星ですが、 2000年5月に米国政府が意図的精度低下(SA:Selective Availability)は今後行わないと宣言したことで、急速に民間利用が普及した経緯があります。また、その開発には軍事目的が主で、民間使用に公開されない部分も多く、多くの国が、国の威信をかけて開発を行っています。
米軍管理のGPSを使用しないものとしても、ロシアのGLONASS、欧州のGalileo、中国のBeiDou(北斗)、インドのIRNSS(GAGAN)、将来の日本の準天頂衛星システム( QZSS )等、全世界をカバーするものから自国用の一定地域のみをカバーする各種のシステム、計画等がありますが、現状では実用化又は普及に関しては、今後の課題となっているものが大部分です。
■文 : N.SUZUKI