海上保安庁〔回転翼パイロット〕
2021/09/01 パイロット魅力はホバリング!
海上保安庁 羽田航空基地の飛行士 江刺家雅利(えさしか まさとし)氏
夏になると毎年、大勢の若者が夢や希望を持って、企業などへの就職活動に励む姿が見られます。多くの若者は民間企業や一流企業を目指す一方で、自分がなりたいパイロットの夢を実現して、また社会に貢献し活躍する若きパイロットもいます。海上保安庁に入庁し、羽田航空基地に勤務する三等海上保安正、江刺家雅利(えさしか まさとし)飛行士もその一人です。入庁して回転翼機であるヘリコプターのパイロットとなった江刺家氏に、パイロットやその任務などの魅力について取材しました。
■取材協力 : 海上保安庁 ■文・写真 : 山本 寛文
※取材日 : 2016年8月18日
取材に対応いただいた江刺家氏(海上保安庁 羽田航空基地にて)
Q : 入庁したのはいつですか。また、パイロットの中でも、なぜヘリコプターの飛行士になったのでしょうか。
A : 平成18年に入庁して10年が経ちました。回転翼のパイロットになろうとしたきっかけは、私が中学生の頃、知り合いに自衛隊の方がいまして、当時、東京の立川という所で自衛隊ヘリコプターの体験試乗があり、その時に初めてヘリコプターに乗せてもらいました。この時に、通常の飛行機(固定翼機)ではできない、上空で停止するホバリングに感動しました。これがヘリコプターのパイロットになろうとしたきっかけです。
Q : 海上保安庁のパイロットになるまでの過程を聞かせてください。
A : 当庁のパイロットになるためには、海上保安大学校または海上保安学校に入学した後、研修を受けて資格を取得する方法と、すでにパイロットの資格を持っている方を対象にした海上保安学校門司分校に入校する方法がありますが、私はパイロットの免許を持っていなかったので、普通科の高校を卒業後に海上保安学校(京都府舞鶴市)の航空課程を目指し、平成18年4月に海上保安学校に入校しました。最初は海上保安学校で1年間、その後パイロットの免許を取得するため、宮城県岩沼市にある海上保安学校宮城分校で約1年半学びました。
Q : 飛行機ではなく、なぜヘリコプターを選んだのでしょうか。ヘリコプターの魅力とは何でしょうか。
A : ヘリコプター特有の操縦として上空で停止するホバリングができることに魅力を感じます。
Q : パイロットとして空を飛ぶためには、民間企業などでも多数、飛べるステージがあったと思いますが、なぜ海上保安庁のパイロットになったのでしょうか。
A : パイロットになる道としては、民間企業への就職を目指す道もありましたが、私の場合は消防や警察の仕事にも興味がありました。ですから初めからヘリコプターのパイロットになることと、消防や警察と同じような仕事に携われることが両立できる海上保安庁への入庁を志望しました。
Q : 一般的に若者が社会に出る場合、仕事としてパイロットになること自体珍しく、さらに海上保安庁への入庁となれば、ご両親も驚かれたことでしょう。ご両親からはどの様なことを言われましたか。
A : 両親は今の私の仕事であるパイロットや海上保安庁などに全く関係のない仕事をしてきました。ですから、海上保安学校入校後に両親から聞いたのですが、私がパイロットになると聞いた時は「ちょっと危ないんじゃないのか?」と思うところもあったようです。心配していたのでしょう。しかし、入庁の採用試験を受ける時は、反対も賛成もありませんでした。要するにやりたいこと、好きなことをすればいいよ、という様子でした。駄目だとも言えなかったのでしょうね。ただ、今思うとだいぶ驚いていたと思います。試験に受かった後に言われたのは「採用されるとは思わなかった」でした。
Q : 海上保安庁に10年勤め、今思うパイロットとして、また海上保安の仕事での、やりがいは何でしょうか。また、人命救助の仕事であり苦労もあるのでしょう。
A : ヘリコプターからの人命救助などを行うため、一般的な会社はもとより、民間パイロットでは体験できない経験をしています。そして救助が成功して、その後、救助した方からお礼の手紙やご連絡を頂くと『あぁ、よかった』と思うと同時に、それだけでやりがいを感じます。また、苦労かどうかはわかりませんが、救助活動は、我々自身も安全を確保し、ギリギリのところで任務を行っています。二次災害はあってはならないことですので安全に関しては常に気をつけています。それと、海難事故は悪天候下が多く、気象が悪い時のフライトでの気を遣うことが苦労の一つとして挙げられます。他には、夜間フライトが挙げられます。海上でのホバリングはヘリコプターの姿勢がどのようになっているのか確認しづらいので大変です。特に月明かりがないような場合は、飛行機から照明弾を落としてもらいますが、それでも昼に比べると、困難な作業となります。
Q : 経験を積んで、今後の自身の進路は、どのように考えていますか。
A : 現在私は機長を補佐する副操縦員として業務を行っていますが、機長になるための訓練もしているところです。機長になるためには、海上保安庁の業務全般についての知識とあらゆる業務を遂行するだけの技量が必要です。機長を目指し、実際に機長として飛ばすためには、どうすればいいのかを考えています。例えば、船が油を排出しているような場合であれば、乗組員が証拠となる排出の写真を撮れる経路で機体を飛ばすなどが求められます。また、船名や船籍などがわかりやすく写真に収められるように飛ぶことなども必要です。訓練は、4~5カ月間行われ、最後は口述及び実技からなる「機長認定審査」に合格しなければなりませんが、全力で頑張りたいと思っています。
Q : パイロットになるためには、どの様に段階を踏めばよいのでしょうか。
A : 海上保安庁のパイロットになるには、まず、海上保安大学校または海上保安学校に入学する必要があります。 海上保安大学校からの場合だと、大学校を卒業後、本人の希望、適性等を勘案のうえ選抜され、航空機のパイロットとしての教育を受けた後、航空要員として業務に従事します。 海上保安学校の場合、航空課程に入学し、パイロットとなるための基礎教養とともに、海上犯罪取締り等に必要な知識を習得したうえで学校を卒業後、更にパイロットになるための教育を受けた後、業務に従事することとなります。 また、あらかじめパイロットの資格を保有している方で海上保安庁職員として海上保安業務に従事したい方は、海上保安庁航空機職員採用試験を受験し、合格後、海上保安学校門司分校に入校していただくことも可能です。簡潔に言いますと、民間のパイロットスクールに通い、自費で免許を取得する等した後に、海上保安庁に入庁する方法もありますが、私のように海上保安庁に入庁してからパイロットになる方法もあります。この場合は費用がかからない利点があります。
Q : パイロットになるための訓練はどのようなものでしたか。
A : 宮城分校では、まず航空法規や航空工学といった座学を行い、半年後にシミュレーターでの訓練を経て実機訓練となります。実際に初めて飛ぶときはかなり緊張しました。初めは教官の操縦でテイクオフして、途中に訓練空域というエリアで操縦を交代し、旋回や上昇などの訓練を行い、離着陸のイメージを身に着けます。それから地上でのホバリングや実際の離着陸などの訓練を行い、訓練が進むとソロフライトや他の空港に行く野外飛行といった訓練を実施、最後に口述試験と実技試験に合格して、晴れて免許取得となります。訓練機は、ベル206Bジェットレンジャーというエンジン1基の機体でおこないました。
Q : 海上保安庁のパイロットの魅力や特徴を挙げてください。
A : 当庁の魅力としては、まず救難関係の仕事が多く、人命救助に直接貢献できること。また、海上保安庁のパイロットは、特別司法警察職員として海上犯罪の取締りなど大変重大な仕事に関われることが特徴です。その他にも、海外での国際飛行の機会があり、以前にはインドネシアでの飛行を経験させてもらいました。海外の海上保安機関との連携など、民間の企業ではなかなか経験できない仕事があることも特徴のひとつです。このようにパイロットであっても様々な仕事に関われるのが海上保安庁の魅力だと思います。